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妄想挿話製作所(旧)


休止した荒野(主に5)の妄想挿話の保管庫です。念のため「はじめに」に目を通しておいてくださいね。

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まじめなだけでは生きられない☆

きっかけは、助けを求めるか細い声だった。
……にぃ
……にぃ
けものの子、それも幼いというより、赤子のほうが近そうな、弱々しい響きである。
もしもこの町が廃墟ではなく雑踏にあふれた、在りし日の姿をしていたならば、けものの声は完全にかき消されてしまっていただろう。
幸いそこに――その町に、と言える日は当分先だろう――暮らしていたのは、目の見えぬ代わりに、人より敏い感覚をもった少女だった。
彼女は指先で探る様子をしつつ、迷いのない足取りで廃墟を進んでいく。時折少女の足を取らんと、瓦礫や枝の類が落ちていることもあったが、彼女は器用にそれらを避けて歩いていた。やがて少女の指が、柔毛に覆われた熱い塊に触れる。か細い泣き声の持ち主は、それでも全身で脈動していた。
「藪にひっかっかって、出られなくなってしまったのね……さあ、もう大丈夫」
やや躊躇いながらも、目の不自由さをほとんど感じさせない動きで、少女はけものの赤子を出してやった。そのまま抱き上げる。
「お腹がすいているでしょう? ミルクでも……」
言いながら向き直ろうとして、少女の体は恐れにかたまった。
魔獣の気配だ。獰猛を孕んだ複数の視線、荒く凶暴に重なり合う息遣いが、ひしひしと押し寄せてくる。
かつて、亜精霊すら跳ね除ける結界を誇っていたこの町は、廃墟となって以来、近隣の魔獣がたびたび訪れるようになっていた。そのため少女は普段、めったに外に出ないようにはしていたのだ。
しかし今回は油断した。けものの子の声があまりに哀れだったのと、『彼』が訪れて数日は魔獣の気配が薄くなるという経験から、少女は武器も帯びずに外に出てしまったのである。もっとも手にしていたところで、地獄の火炎を吐き出す番犬たちを前に、満足に振るえるわけではなかったが。
魔獣たちは唾液を滴らせながら、鋭い牙を表に晒し、顎の奥に火をともす。
けものの子を胸にかばいながら、少女は身じろぎもできず立ち尽くす。魔獣たちには格好の的だ。
うおん、と猛烈な熱気が少女を襲った。
――しかし、それだけだった。
火の粉の一片も、彼女には触れていない。代わりに聞こえてくる、耳慣れた声。
「うあちゃちゃちゃちゃちゃーッ!!」
「ゼットさんッ?!」
「ええい地獄の火炎釜にも住めないような半可通のくせにちょこざいなッ! お茶の間賑わすスーパーウルトラハリケーン、このゼット様が成敗してくれるわッ! とうッ」
きゃいーん、と高く響く魔犬の悲鳴。言葉通り竜巻のごとき勢いで、魔獣を打ち倒しているらしい。少女が我に帰ったときには、魔獣の気配はすっかり霧散していた。
「大丈夫ですかゼットさんッ」
「なんのこれしきお茶の子さいさいッ! 全力全開絶好調ーッ!」
勝利のVサインを天高く突き上げ、星にも届けと子供もやらない馬鹿笑い。これで実力は折り紙付の剣士なのだから、世の中はわからない。
「あ、そうだ。アウラちゃんは怪我ないか?」
「はい、ゼットさんのおかげで、私もこの子も無事でした。ありがとうございます」
少女が抱き上げて剣士に示すと、けものの子は応えるように、にゃ、と鳴いた。
「やややッ?! 気をつけろアウラちゃん! そいつはうっかりドジ踏んでやるせない猫化したニンゲンかもしれないぞッ!」
「やるせない猫、ですか?」
「そうッ、やるせない状態のさらなる進化形ッ! 元気ドングリをヘックスとやらに投げ込むまで、あらゆる語尾に『ニャー』とつけてしゃべらなくてはならない、どこぞの合コンの罰ゲームに匹敵する恐ろしいステータスなのだッ!」
なぜ剣士が『合コン』という単語を知っているのかは不明である。
「でも、これは普通の猫さんだと思いますよ? 人とは全然雰囲気が違います」
「うむむむ……(ちょっとしたアメリカンな冗句にそうまじめに律儀に返されてはボケのし甲斐が……)ま、怪我がないのは良い便りッ! お袋さんも泣いて喜ぶに違いないッ!」
「……あの、そういえば、さっきからなんだか焦げくさい気がするのですけれど――ゼットさんの頭の近くで、何か燃えていません?」
「ん?」
ぱす、と自分の頭に手をやる剣士。
次の瞬間、絶叫が壁という壁を震わせ、瓦礫をひとつふたつ、落とした。
「うあちゃっちゃっちゃーッ!! オレ様のこの世に二つとないグリーンヘアーがあああッ!」
「ゼットさん、右ですッ! ああ、そっちじゃなくてッ!」
白煙を上げながらむやみに駆け回る剣士に、うろたえつつもしっかり少女は指示を出す。やがて剣士は水がめに頭からつっこみ、しゅうしゅうと音を立てた。
「大丈夫、でしたか?」
「うう、頭の山火事で禿ちょびんなんて、お茶の間のアイドルにあるまじき失態だぜい……」
よほど頭部の状態が気になるのか、剣士はいつもに比べて10分の1も元気がない。少女はできるだけ気の毒に思おうとしたが、そう意識を向けようとすればするほど、先刻までの自分たちの様子に、こみ上げてくるものが強くなる。
「……ぷ」
結局、少女は堪えきれずに吹き出してしまった。小鳥のような彼女の笑いに、やがてかんらからから、と剣士の高笑いが寄り添う。
そうして二人が、魔族とニンゲンが、ともに笑っている様子を、けものの赤子は澄んだ目で見ていた。

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