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妄想挿話製作所(旧)


休止した荒野(主に5)の妄想挿話の保管庫です。念のため「はじめに」に目を通しておいてくださいね。

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愛と勇と希みと欲と

ネタバレ注意報発令中。ラスダン近くの話です。












4人の少年少女は、神剣の破壊という目的のため、逃亡を続けながら港町へと向かっていた。
これはそんな彼らが、浜辺を通過していたときの出来事である。



1.ある少年の場合

「ねえラクウェル、“れんぼ”って何?」
唐突なジュードの質問に、ラクウェルはそのせいばかりでなくたじろいだ。
ブレイクポイントの傍で休憩し、水や食料を調達していた時のことである。じゃんけんに負けたアルノーは水汲みへ、残る3人はそれぞれ浜辺や草むらで食べられそうなものを見繕っていた、その矢先だった。
「ど、どうしたのだ、急に」
「これに書いてあったんだッ」
ジュードが見せたのは、濡れて色褪せた1枚のチラシである。貝でも探すうちに見つけたらしい。チラシは演劇か何かの呼び込み用だったらしく、男女が向き合う画に添えて、『恋慕は真紅の花と咲き』と飾り文字が踊っていた。
「ねえ、どういう意味?」
青い瞳はただ純粋にまっすぐで、だからこそ碧の双眸は揺れ惑う。ラクウェルとて、実感としてその単語を知ったのはつい最近のことなのだ。甘く苦く、だからこそ口にのぼらせ難い。
「そ、それは……だな……」
「それは?」
「だ、誰かを……どうしようもなく、愛し、いや、大切に想うことだと、私は思う」
「ラクウェルが好きな、“仲良きことは美しきかな”みたいなもの?」
「まあ……似たようなもの、か。―――この世の美しいもののひとつだ」
「ふーん」
内心息も絶え絶えの状態で紡いだラクウェルの言葉に、わかったようなそうでないような顔で、ジュードはチラシを眺め回す。そのうちに、ふと呟いた。
「何だかこの画の女の人、あの空間魔術のひとみたいだ」
サイスと名乗るノーブルレッドを打ち倒した直後、莫大な亜空間とともに現れた娘――娘の姿をした何ものか――のことを、遠い記憶ながらもラクウェルは覚えていた。
「そうか? 髪の色も服装もまったく違うではないか」
「うん。でも何だか……消えちゃう寸前の顔に似ていない?」
ジュードの言葉に、ラクウェルはあのときの戦いを思い返す。仲間以上の存在だったらしい相手を奪われた『娘』は、激昂のままに広大な空間を作り上げ、自分たちを殺そうとしたのだった。空ろな眼窩に金の方陣を映し、全身に幾何学模様を走らせる様は、伝説に謳われた魔族そのものと思われた。
だが、くず折れる最後の一瞬、魔族は表情を変えたのだ。
「何だか、やらなきゃいけなかったことに、初めて気づいたみたいな顔してた。この女の人も、何かをやり残したのかな?」
「さあ、どうだろうな。やり残したのなら、ジュードはなんだと思う?」
安堵と興味を交えたラクウェルの問いに、ジュードは腕組みをして考え込んだ後、顔を上げて言った。
「もっとたくさんの人にレンボすれば良かった、とか。誰かがいなくなっても、他に大事な人がいっぱいいれば、あんまり寂しくないから」
あんまり、という言葉どおり、母親の死はいまだジュードの中に影を落としている。けれどもユウリィやアルノーやラクウェルが、ハリムにいる大人たちが、躊躇いなく大好きな人々がいるからこそ、ジュードは前を向いて走っていこうと思うのだ。
ジュードがたどたどしいながらもそう説明すると、ラクウェルは穏やかに目を細めた。
「本当に、君が大人になるのが楽しみだな」
そう告げるラクウェルの背後で、突然、どんっ! と炸裂音が響いた。次いで2度、3度。方向は、まさに二人が向かった、草むらの向こうだ。
「ユウリィ!」
「アルノー!」
互いに護る者の名を叫び、二人は全速で駆けた。



2.臆病者は幸いである

ジュードとラクウェルが語り合っていた頃、ユウリィは少し離れた草むらで食べられる草や果実を探していた。ベリーがあれば戦闘が楽になるが、薬効のない木の実でも若い彼らには重要な食料だ。アルノーは別格としても、ジュードは育ち盛りだし、ユウリィやラクウェルだってそれなりに食べる。
蔦をかきわけ、ユウリィは上のほうに熟した果実の群れを見つけた。けものでは高さが足りず、鳥が降りるには周囲が繁りすぎていたため、無事に残っていたらしい。脱いだ上着に収穫をまとめると、ユウリィは懸命に腕を伸ばした。しかし、指が触れそうでなかなか触れない。
「もう、少し……」
ユウリィが一歩前に踏み込んだ瞬間。
悲鳴を上げる暇もなく、彼女の体は崖下へと滑り落ちた。繁みで足元が隠されていたのだ。緩く長い坂の上で、がざざざざざざざッ、と激しい摩擦音が響く。音に反応して鳥が飛び立ち、そして。
「あッ!」
獲物を察した魔獣の激突をくらい、ユウリィは初めて悲鳴を上げた。上着を脱いでいたせいで防御が薄く、激痛が体中を走っている。だが、彼女はすぐに体勢を立て直した。魔獣は襲撃の際、六角の結界を張り巡らせて獲物を追い詰める。しかしその中で耐えつつ隙を見て逃げ出すか、あるいは魔獣を倒してしまえば、切り抜けることはできるのだ。自分にヒールをかけ、ユウリィはサークルを構えた。
けれども次の瞬間、彼女の顔ははっきりと青ざめた。ユウリィを中心にして、複数の魔獣が取り囲んでいる。しかもより凶暴な種類のものだ。滅多に出るものではないが、確率はけしてゼロではない。
「そんな、こんなところでッ」
防御に入るどころか、避けることさえ難しい速さで、魔獣は次々に襲ってくる。それでもユウリィは必死に耐えたが、ヒールをかけるので精一杯だ。マテリアルドライブを使っても、一撃で倒せるような類ではない。少しずつ、少しずつ、彼女は追い詰められていった。回避の頻度も少なくなり、ヒールのための精神力も、底に近づいていく。そうなれば、後はなぶられるだけだ。
ジュード、と思わず呟いた瞬間、助けは現れた。
連続する炸裂音。体液を撒き散らしながら、魔獣たちは新手のほうに向いた。術式を組む青年に攻撃を繰り出すが、顔に似合わぬ俊敏さで彼はそのほとんどを避けてしまう。さらに術式が魔獣へと放たれ、魔力を弾けさせた。時折手痛い一撃をくらいながらも、青年は術式を組み続ける。その隙にユウリィは腕を構えた。
『Linking to the material......』
数度目の炸裂音が響くと同時、炎熱の巨鳥が結界中を焼き尽くし、ジェムを残して魔獣は蒸発した。
「ユウリィ、無事かッ?」
「アルノーさん!」
気が抜けた途端にユウリィは足元がよろけ、駆け寄ったアルノーにぎゅっと抱きつく形になった。兄とは違う「男の人」の気配に、ユウリィの意識とは関係なく頬が染まっていく。
「あ、あ、ああの、ごめんなさいッ」
「いいって、いいって。頑張ってたんだろ?」
ぽん、と頭に手を置かれ、ふいにユウリィは気づいた。
「あー、戦闘で上着どろどろになっちゃったな。洗ってきてやろうか? 実は汲んできた水、ここに来るのに大半こぼしてきちまったし。ついでにさ」
よく回るアルノーの口ぶりはいつもと変わらない。けれども、彼の手も体も、何かを押さえ込むように細かく震えていた。
「ユウリィッ!」
「無事か、二人とも!」
頭上から仲間の声が降り落ちる。アルノーは一瞬体を強ばらせたが、すぐに無事を知らせるように手を振って見せた。その間も、細かい震えは収まらないままだった。
「アルノーさん……」
「さ、無事な奴だけ拾ってとりあえず上に戻ろうぜ。お子ちゃまの腹の虫が泣き喚く前にな」
片目をつぶって、あくまでいつも通りに振舞おうとするアルノーに、ユウリィは言いかけたことを飲み込んだ。代わりに告げる。
「助けてくださって、ありがとうございます」
「……おう、ピンチの女の子を助けるのは、古今東西男の夢だからな」
気まずそうに視線を泳がせるアルノーに、ユウリィはおかしくなって、小さく笑った。あまりにも聖カリュシオンの逸話にそっくりで。
それは世界一臆病な男が、聖カリュシオンを護るために世界一の、絶対たる力を振るった話。
ゆえに聖典はいう、臆病者は幸いである、と。



3.くもりのち晴れ

草むらを抜け、年少組二人は手近な岩のそばに荷物を下ろした。ジュードたちに留守番を任せ、年長組はこぼした分の水汲みと上着の洗濯に向かっている。二人は拾った貝を集めなおし、乾いた流木で火をおこした。
「ユウリィ、平気? 大丈夫?」
「大丈夫よ、ジュード」
尋ねるたびに微笑んで、ユウリィは同じ答えを返してくる。それでもむき出しの腕や肩についた傷が痛々しく、ジュードは何度も尋ねずにはいられなかった。ビスケットに混ぜる木の実を刻んでいる時も、鍋に入れる野草をちぎっている間も。
「ジュード、一体どうしたの? ヒールもかけたし、私は本当に平気ですよ」
「うん、知ってる。わかってるんだけど」
不思議そうに問うユウリィに、答えながらジュードはうつむく。脳裏に浮かぶのは、傷だらけでぼろぼろのユウリィと、薄汚れつつ安堵した顔のアルノーがくっついていた光景。その度にざわざわともやもやの、嫌なところだけ合わせたような何かが胸に広がって、ひどく落ち着かないのだ。
「ジュード」
ユウリィが、柔らかい手をそっとジュードのそれに重ねた。
「心配してくれてありがとうございます。でも、もう大丈夫だから」
それにね、と彼女は付け加える。
「ジュードが助けに来てくれたの、うれしかったです」
「でも、助けたのは、アルノーだよ」
僕じゃない。君を護ると約束したのに、全速力で駆けたのに、僕は間に合わなかった。
ああ、そうだ。胸の辺りがこんなにも嫌な感じなのは――
「ごめん、ユウリィ。護るって言ったのに」
気落ちするジュードに、ユウリィは激しく首を振った。
「いいえ、ジュードはいつだって、私を護ってくれていますッ! だから、そんな泣きそうな顔をしないでください」
重ねられた手は温かく、ジュードは申し訳ない気分になってきた。自分のせいでユウリィの表情が曇るのは、彼にとって非常に心苦しい。ジュードは顔を上げて頷いた。
「うん、わかったッ。でも、次は絶対僕が護るからッ」
「はい」
「じゃ、早くごはん作っちゃおうッ! 僕もうお腹ペコペコなんだ~」
ジュードが顔を明るくすると、ユウリィも素直に笑って調理の続きにかかった。
常に陽性に向かい、無条件に手を差し伸べる自分の言動が、何より彼女を護り続けているということに、ジュードは気づいていないのだ。
「街も近いですから、携帯食糧はいつもより多めに使ってしまいましょうか。アルノーさんもお腹空いてるでしょうし」
「うん、魔法を使ったらその分お腹空くって言ってたし。ガウンみたいに食べ尽くされたら困るもんねッ」



4.怖れるほどに色鮮やかな

「いっくしッ!」
「風邪でもひいたか?」
振り向いたラクウェルに、アルノーは軽く首を振った。
「いや。誰かに噂されてるな、これは」
「ふむ」
納得したように頷いて、ラクウェルはユウリィの上着を絞った。ぱん、と一時に広げて皴を取る。水気の残る上着は蒼色を色濃くしていた。
「この陽気だ、広げていればある程度乾くだろう」
「んじゃ、そろそろ行きますかね」
上着を簡単にたたむラクウェルにあわせ、長い肢を伸ばしてアルノーが立ち上がる。ぶら提げた皮袋の中で、今後の飲み水が音を立てた。
「水汲みくらい、私がしても構わなかったのだぞ。お前は疲れているだろう」
「単独行動は危ない、って言ったのはラクウェルだろ」
「私なら心配ない。この剣があれば、一人で切り抜けられる」
「だーから、そういうこと言う奴ほど危ないんだっての」
表面だけ見れば、年長組のいつも通りのやり取りである。しかしラクウェルがあまりに泰然としているのが、アルノーは逆に怖かった。
(仲間に、しかも年下の女の子に抱きつかれたくらいで、いちいち妬かれてちゃ面倒だが、顔色ひとつ変えられないってのも悲しいもんだよな……)
意外に発育の良かった少女を思い返しつつ、アルノーは溜息をつく。ハリムで告白はしたものの、内外の事情で二人にはほとんど進展がない。年少組が傍にいるときはラクウェルがさりげなく距離をあけていくこともあるが、甘い雰囲気になるには状況が殺伐としすぎていた。何せこれから、彼らは命がけで神剣とやらを破壊しに行くのである。色恋など二の次、と堅いラクウェルが考えていてもおかしくなかった。
「ちぇッ」
「ど、どうした?!」
「え、いや、ラクウェルこそどうしたんだよ」
過剰に狼狽するラクウェルの様子に、アルノーの方が驚いてしまう。いや、別に、と視線をそらすラクウェルに、アルノーは詰め寄った。
「抱え込んでないで言ってみろよ。そういや何か顔色悪いな? 調子悪いんじゃ」
「アルノー」
真剣な声音が彼の言葉を止めさせる。両腕を抱きしめるいつもの姿勢で、ラクウェルは目を伏せ語り始めた。
「先刻、ジュードとノーブルレッドの娘の話をしていたんだ」
「あの空間魔術の化け物か」
「ああ。だが、傷だらけのお前を見たとき……私も同じことを考えていたんだ。私の持つ全てで、ぼろぼろに痛めつけてやりたいと」
「ラクウェル」
「時々、恐ろしくなる。自分がこれほどおぞましく欲深かったかと。それでも、気づいてしまうんだ。私はお前を失いたくない。お前に血を流させるものを、絶対に許せない……ッ」
引き攣れた声で、強い彼女がもろく言葉を吐くものだから、アルノーは迷わずラクウェルの腕を引き抱きしめていた。
「いいよ、何を望んだって構わない。頭の中にあるだけなら、誰も責めやしねえよ」
「それでも、私は怖いんだ……お前といると、目に映る何もかもが鮮やかで、空の青も、森の緑も、本当に美しくなる。けれど、お前の赤い血の色も、私の中のどす黒いものも、目に焼きついてしまうんだ」
「ラクウェル……」
所在無く髪を撫でるアルノーの胸に、ラクウェルは子供のように固くしがみついていたが、やがてふっと力を抜いた。
「すまない。詮無いことを言った」
その口調に距離を感じ、アルノーは励ますように言った。
「俺も情けないところばっかり見られてるんだから、たまには逆になったっていいじゃないか。むしろもっと求めてくれてもいいくらいだぜ?」
「アルノーはもう私にたくさん与えてくれているんだ。これ以上を望んでも、私には」
「俺がお前に欲しがられたいんだよッ」
諭すように首を振るラクウェルに、アルノーは強い口調で言い返し、そのままきつく彼女を抱きしめた。
神様でも伝承の獣でも何だっていい、彼女の欲深さを肯定してやってくれ。癒えるかわからない華奢な体で、それでも大剣を振るい戦い続ける彼女に、望むこと全てを叶えさせてやってくれ。俺の求めも望みも、全てそのために捧げるから。
子供じみた戯言だと頭の片隅で思いながら、その瞬間アルノーは全力でそう念じていた。
「……アルノー、苦しい」
「あ、わりぃ」
アルノーは力を緩めたが、腕を解こうとはしなかった。触れる体はなお冷たく、灰紅色の頭に揺れる真紅のリボンが、手放すのが恐ろしくなるほど色鮮やかで。
「さあ、もう戻らねば。半端に乾くと、ユウリィの服に皴がついてしまう」
「そうだなあ……」
「それに、お前の腹の虫も騒ぐ頃ではないか?」
「なッ、失礼な、おこちゃまみたい……に」
勢い込んだ言葉が途切れるほど大きく、間抜けな重低音が二人に響く。くつくつと笑いながら、ラクウェルは情けなく脱力したアルノーの腕を解いた。そのまま、互いの手を絡ませる。
「ラクウェ」
「戻るぞ、アルノー」
そっぽを向いたまま、紅色の頬で歩き出すラクウェルに、アルノーは苦笑を浮かべてついていった。初めての相手からの接触に、募るものを抑えながら。






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