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妄想挿話製作所(旧)


休止した荒野(主に5)の妄想挿話の保管庫です。念のため「はじめに」に目を通しておいてくださいね。

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恋愛よりも複雑で、ロマンスよりも単純な

「この戦いが終わったら、キャロルはどうする?」
虚をつかれたのと呆れたのと、半々に入り混じった彼女の顔つきを見て、彼は自身の失敗を悟った。ふと浮かんだ疑問を、場を考えず口にしてしまうのは、彼の直しがたい癖だ。
「今はそういうこと聞いている場合じゃないですよぅ、チャックさんッ」
予想通り腕を上下に振りながら、小さな才女は咎めの声を出す。その向こうではリーダーと身軽な少女が、それぞれダンジョンの仕掛けを撃っていた。
「ここがどこだかわかってるんですか、この先に四天王の誰かが待ち構えているんですよッ」
そうだね、と彼が同意すれば、まったく緊張感のない、と彼女にため息をつかれる。その様を可愛らしいと思ってしまうのだから、やはり緊張感がないなと彼は苦笑してしまう。
「どうも現実味がわかなくてね……戦いの先っていうものに」
「チャックさんはギルドの立て直しをするのでしょう? ファリドゥーンさんのところでそう言っていたじゃないですか」
言いながら仕掛けの先へと進む。宝箱があります、とうれしそうに銀髪の麗人が告げた。魔獣の気配が妙に少ない、と年長者が眉をひそめている。
「さあ、どうしようかな」
慣れた軽薄な調子で彼は本音を返す。振り仰ぐ彼女の顔が問い直す前に、彼はリーダーの少年のほうに歩き出していた。
火の塔の最上階が近い。


次の攻略を水の塔に定め、6人は交代で眠りについた。少女たちは心持短く、男たちは夜中を中心に長く。
「大丈夫か?」
小さく熾した焚き火を前に、長身と中背が夜更けの交代劇。
「平気さッ、今日は満月だもの」
へらりと笑って彼は年長者から風除けを受け取る。暗闇を厭う彼だが、月の満ちた夜は比較的楽だった。白く輝く球体は、時に太陽に匹敵するほど明るく地上を照らす。彼には相手の吐く溜息の行方まで良く見えた。
「おやすみ、グレッグ」
「ああ」
無愛想な声で相手は投げやりに手を挙げる。どこか険が強く感じるのは、復讐の時が近いと感じているせいか。月を見上げながら、そういえばこの先はどうするのだろうと、漠然と彼は思った。
曇りない漆黒の天穹は淡く銀光を帯び、闇ばかりが夜ではないと静かに示しているようだ。星明りも加わって、地を這う影が色濃く見えるほどに、周囲は明るかった。
それでも目に映るのは暗い夜空、そして精も魔も曝け出す満ちた月だった。満ちてなお世界に翳を落とす、無慈悲で無関心でそれゆえに優しい、月の姿だった。
――この先はどうなるのだろう。
戦いが終わり、旅が終わり、『仲間』が終わって。
その後の未来に、未来のために戦っているのに、自分では真摯になれない。
(ボクは人のそばにいていいんだろうか)
ギルドを立て直すという思いつきも、正直に言えば茫漠としていて、砂漠の砂より易しく指からこぼれていく。
(今までは偶然が助けてくれただけじゃないのか。彼らの強運が災禍を打ち消しただけじゃないのか)
誰かを護れるほど強くはなった。けれど護りたい人を託した今、今の彼には何もない。
(ボクが彼らにとっての死神にならないと、なぜ言える?)
身の内を冷えた指に撫でられた心地がして、彼は手にしたままだった風除けを巻きつけた。あまねく地を照らす満月はそのまま安息を意味しない。清かな光は闇を掃わず、精も魔も等しく孕むのだから――
「チャックさんッ!」
幼くも鋭い叫び声。突然のことに狼狽しつつ振り向けば、戦闘時以上に張りつめた顔で彼女が息を荒げていた。また何か怒られるようなことをしただろうかと、彼の頭は瞬時に今日一日を振り返る。しかし、やはりいつものように、何の心当たりも浮かばなかった。
「どうかしたのかい、キャロル?」
何か言われたら即座に謝りたおそう。そう決めて身構えていた彼は、さらに当惑することになった。
澄んだ紅茶色の瞳から、硝子珠みたいに透明なものが、ぽろぽろ連なって落ちていく。震えているらしい華奢な体は、いつものリボンを付けていないせいで、昼間より余計に小さく見えた。
「あの……泣くほど怒ってるのかい? ボク何かしたかな」
彼女は強く首を振る。人の手で折り取れそうなほど細い首だった。彼女は小さな手を胸の前でかたく握りしめて、湿った掠れ声で告げた。
「いいえ。なんでも、何でもないのです」
「何でもなくはないだろ? どこか痛いならちゃんと言わないと駄目だよ」
「……ッ!」
一瞬何事か言いかけた彼女に気づかず、彼は案じ顔で口元に軽く丸めた指を当てる。
「海のミーディアムはアヴリルが持ってるんだっけ。アイテムはレベッカのところだし……ああ、ベリーなら確か荷物に」
「あの、ホントになんでもないですからッ!」
思う以上に大声だったのだろう、彼が目を瞬かせる前で、彼女はぱっと口に手を当てた。目元だけでなく、赤い色が顔中に広がっていく。その様を月は無慈悲に照らしていた。
「ゴメン、結局怒らせてしまったね」
もはや力が抜けてしまったのか、彼の言葉に彼女はただゆるく首を振った。途切れていた滴が再び数を増す。女の子は忙しいな、と少女だった幼馴染を思い起こし、彼の胸は少しく痛んだ。


風除けを頭から被せてやり、小さくなった焚き火のそばに彼女を座らせると、彼はいくつか枝を折って火に投げ入れはじめた。月がわずかに傾き、炎が大きくなっていく間に、ようやく彼女は泣き止んだらしい。
「というか、何でこんなに泣いてるんでしょうか」
拗ねたような調子でぼやく彼女に、彼は苦笑した。
「はい、あったかいものどうぞ」
「はあ、あったかいものどうもです」
糖蜜のお湯割りを彼女に渡し、彼は濃く淹れた珈琲を啜る。
夜は長く体を冷やすものだ。次の者のために薬缶をかけておくところが年長者らしかった。おかげで夜闇の中、水を取りに行く手間が省ける。
「チャックさん」
「何だい?」
「アヤシイものについていったりしないでくださいね」
「……え?」
「しないでください」
腫れた目で、強い視線で彼女がそう言うものだから、彼は押されて頷いた。
「う、わかった。気をつけるよ」
片手で降参の意を示しながら、そんなに子供じゃないんだけどな、と彼は小さく付け加える。幸い、彼の返事でやっと最後の強ばりをといた彼女には、後半は聞こえなかったらしい。
「これ、ありがとうございます。おいしいです~」
一転して年相応に笑うから、まあいいか、と彼は思った。彼女の笑顔は、火の塔で奮闘した少女に似始めている。彼にはもう、遠く難い表情。
――そういえば、結局答えを聞かないままだった。
「キャロルは、この戦いが終わったらどうしたい?」
「昼間の続きですか」
繋がりのない会話に、とうに慣れてしまったのか、彼女は少し遠い目をして続ける。
「そうですね……もっと、旅がしたいです。皆さんといて、いろんな場所にも行きましたけど、ゆっくりはできませんでしたから……前から、消えそうなヒトの言葉を集めてみたいって思ってましたし」
「古い言葉って、言葉はボクらの話すものと、せいぜい古代文明時代のものしかないだろう?」
彼の疑問に彼女は首を振り、研究者から聞いた話を語り始めた。
移住から百年と少し、それだけでこの世界の言語はほぼ統一されていた。支配者たちはメディアと権力を駆使し、自分たちの共通語を無理やり押し広めたのである。生まれも育ちも異なる6人が、会話に不自由しないのはそのせいもあった。
けれど同時に、支配者は1万2千年の時を経て生き残った文化を、それが持つ多様性を絶やしてしまったのだ。遣われない言葉は伝えられずに忘れ去られ、失われた韻律は二度と戻ってくることはない。記録に残されでもしない限り、死よりも完璧に消滅する。
「ベルーニの最大の罪は、ヒトの言葉を滅ぼしてしまったことだと、そう考えているバスカーの人もいました」
ある言葉の体系が途絶えれば、その背後にある無数の思想が滅びる。それは今でもこの荒野で、刻一刻と行われていることなのだ。養父から荒野の歴史を知り、研究を詰め込んできた幼い才女は、だからこそ世界にかすかに残る、古き言葉をさがしに行きたいと願う。
「グラィアス、メルスィ、スパシーバ、アサンテ、ダンケシェン、オブリガード、シュコラン――感謝の簡単な挨拶だけでも、これだけの言語があったと教わりました。しかもその一つひとつに、違うニュアンスが絡んでいるんです。これは主流に近い体系で、地域によってはもっと別の言語もあったはずだって、アヴリルさんは言ってました」
「……どっちに感心したらいいのかわからないような数だね」
熱心に語る彼女への、半ば独り言めいた彼の台詞に、きょとんとした顔で彼女は彼を見上げた。
傾く月に翳りはより深くなり、明暗を確かに分けていた。濃さを増す漆黒の中、限られた光の照らす色は鮮やかさを強めていく。焚き火に照らされた彼女の頬は朱みを帯び、髪が燈色に艶めいていた。暗闇の中でも紅茶色の瞳が鮮やかに輝いている。
その様を綺麗だと彼は思ったから、そのままに口が動いていた。
「要するに、美人言語収集家が近々登場するって訳だねッ」
「は、はわわ~ッ。何言ってるんですか~ッ」
真っ赤になって腕を上下する彼女に、単語を間違えたかと彼は首を捻る。
「美人研究者の方が良かった?ボクこういう単語は詳しくないからさ」
いつものことながら、彼女は熱を上げ続ける頭を抱えてしまう。そういう問題じゃないんですぅ、という呟きは彼に聞こえたかどうか。
「第一、今のはずいぶん先の話ですよッ」
「あれ、そうなのかい?」
「種族の壁を壊した後でも、直接武器を使わない『戦い』は続いていくでしょう? 私はそのお手伝いをしなくちゃいけないと思いますから。バスカーの皆さんにも教えていただいたことがたくさんありますし、少しでも役に立たないと」
えへへ、と笑う顔はどこかで見た愛想笑いだったから。彼は思わず指を伸ばし、彼女の頬を引っ張っていた。当然諸手を上げて抗議する彼女に、笑われるより怒られるほうがいいかな、と彼が素直に告げると、彼女は非常にいぶかしげな顔をして
「チャックさんって、変ですッ」
「そうかい?」
「そうですよぅ」
自覚がないところが救いようがないですね、とまで言いながら、彼女は冷めてきたお湯割りをこくこく飲む。
「それで、チャックさんはどうするんですか?」
「何がだい?」
「戦いの後に、ですよぅ。『どうしようかな』って言っていたじゃないですか」
よく覚えてるね、と彼は苦笑して折った膝の上に肘をついた。頭上ではさらに満ちた月が傾き、周囲が翳りに覆われていく。
「そうだなぁ、他にやりたいこともないし。ホントにギルドの立て直しでもやろうかな」
「あっさり言いますけど、大丈夫なのですか?」
案じ顔の彼女に、子どもじみて得意気な調子で、彼は胸を張ってみせる。
「ふふん、元ゴーレムハンターをなめないでもらいたいねッ。『あきらめない限りヒトは何だってできる』だろ? それに、キャロルみたいに小さな子が、未来を我慢するような社会は早く終わったほうがいいと思うしねッ」
(何より、ボクみたいな奴は自分の欲に向かうほど、周りに迷惑をふりまくだけだろうから)
いつものへらっとした笑みに、何だかひどくずるい気がする、と彼女は直感したが、そう告げるには浮かんだものが曖昧すぎた。
「子供扱いしないでください。年上のふりして」
結局、口にされたのはやはり直感とは見当違いのことで、けれど吹き出した彼は彼女の真意に気づかない。
「じゃあ、こういうのはどうかな。未来の研究家にご依頼いたします」
珈琲を置くと、芝居がかった調子で青年は才女に礼を取った。そして告げる。

慕情とも愛しさとも少し違う、深く暗い洞の中で、遠いろうそくの光を見ているような想いを、それを表す言葉をもし見つけたら、どうぞ一番に教えてください、と。

「僕の知っている語彙じゃ貧弱だし、ひと言で言うにはあまりに複雑すぎてね。それでもいつか、どうしても伝えたいって思ってるんだ」
「――ルシルさんに?」
「……そう、ルシルにも」
満ちた月は無慈悲に無関心に、ゆえに優しく二人を照らす。傾きながら、弱まりながらもさりげなく、互いを見ない二人を照らす。赦免も糾弾も行わず、ただあるがままに闇を光に孕む。
「わかりました」目を閉じて彼女は応えた。「いつになるかわかりませんが、お受けします」
彼は肩から力を抜き、有難う、とゆるく笑んだ。淡く照らされたその笑みは、傾く満ちた月にふさわしかった。彼が月霊に攫われる夢を、彼女が思い出すのに十分なほどに。

*

うう、終わりがつけられなかった……
改稿は未来のちはれに回して、これで完成にいたします。
待っててくださった方ごめんなさいorz
甘そうなタイトルのくせにすっごい暗いです。一応チャック攻めなのにわかりづらい……
もう二度とチャック視点では書かない!萌えない!(ぇ)

実はWA5で一番驚いたのは、VSファリ戦でのチャックの長広舌でした。
何分ステータスの平均っぷりと、身構えたときのポーズがどうしても気味悪くて(チャックファンの方ごめんなさい)ひとりブラックマーケット係だったんですよ。だからイベントがらみでしか顔をそもそも見ないし、基本的に無難なことか「ちょっと来てください」なことしか言わないし、後半に行くほど出番がなくなるから余計に影が薄くなるし(笑)。
こんなに気持ちを抱えて熱く叫べる人だったのかと、当時は驚きすぎて引きつり笑いしてました。
今思えば、チャックが本音を告げたのは、あの一回だけだった気がする……
とはいえ諸事情でゲーム手放しちゃったから、チャック像はどれだけこね回しても一番曖昧なんだよなー。

うちのチャックは外当たりは良いけど内側ががっちり固められちゃった人のようです。
キャロルは反対に最初の接触がすごく怖いけど、馴染んだら馴染んだで手放すのが怖いみたい。
彼女がある程度成長して、覚悟と責任を担えると自他共に認められるようになったら、また状況は変わってくるでしょうね。
ちなみにグレッグが出張っているのは最近の趣味です。


改稿用メモ
・今回のテーマは「(このファルガイアにある)言葉では表せない」と「ずるいチャック」
・誰かのためではなく誰かのせいにして未来を過ごそうとしている、生存理由や行動責任をキャロルに押し付けてしまって、そのことを自覚していない
・ただ己の行動責任を彼女のせいにして未来に行くのは多少なりとも彼女に好意を持っているから
・互いに「好意」だが「恋慕」ではないと思っている、ただしその概念を表す言葉が存在しない。
・遠く小さな輝き=キャロルであり我を持つ仲間たち、消えないように護って、けれど明るさからは遠ざかる。それだけでいいと思ってる
・これでも攻めです。一番くどき文句っぽくないところが最大の隙
・ルシルが残っているから余計に「好意」から上の感情に名を与えない、目をそらす
・アデュー=じゃ、死後にね
。ファルガイアの共通語は英語とフランス語が混じった感じだと思う
・ラストが明らかに足りないんだが、間延びにも見える。しかしあと1シーンはほしい。
・言葉のネタが浮いてしまっているのでもう少し自然にしたい
・月の一番明るいときが一番素の姿

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