妄想挿話製作所(旧)


休止した荒野(主に5)の妄想挿話の保管庫です。念のため「はじめに」に目を通しておいてくださいね。

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想いを対価に

ネタバレ警報発令中。クリア後の閲覧を推奨します。
ED後捏造注意報発令中。












その名の通り、氷の声で女王は命じた。
「繋げなさい」
『了解、アクセス開始』
電子音が応えた瞬間、女王の肉体が消失する。いや、消失に近い感覚に陥る。女王は肉体の境をなくし、意識だけを遠くへと伸ばした。
やがて、ひとつ目の思念体に行き着く。

「ディノギノス、山々の守護者にして不退の王よ。わたくしの願いを聞き遂げてください」
頑強な砦のごとき腕が広げられ、その奥の瞳が女王の意識を貫く。
『薄き血縁につらなる巫女よ、脆弱な力で何を望む』
「わたくしと、わたくしの仲間たちのために、あなたの守護の力を。退かず、足を踏みしめて、留まり戦い続ける強さを」
女王の意識は自身の姿をとり、凛と顔を上げて思念体を見つめ返す。
『そなたは、余に仲間を殺させたいのではなかったか?』
「確かに、かつてわたくしは見捨てることが未来に繋がる手段だと信じていました。けれど、それは将来を見捨てた、卑怯な逃げだと気づいたのです。わたくしはもう逃げたくない。そのために、あなたの力を貸してください」
思念体の強い視線に、女王は真正面から向き合った。足を肩幅に広げ、手を腹の前で組んだまま、そこに留まり続けた。やがて、思念体は重い口調で告げた。
『……よかろう。そなたの想いを対価に、契約を交わすとしよう』
「ミーディアムへあなたの力を。そして、1万2千年後に、バスカーの研究所へ届くようにしてください」
『では、1万2千年分の想いを捧げよ。さすれば願いは約されよう』
「誓います」
『ここに、契約は為された』
途端、女王の意識は一瞬で肉体に引き戻され、殻の中に閉じ込められた。

『アクセス終了』
「次へ向かいます。繋ぎなさい」
『了解、アクセス開始』
女王は再び意識だけとなり、二つ目の思念へと意思を飛ばした。

「ルカーディア、海の守護者にして万生の母よ。わたくしの願いを聞き遂げてください」
女王の意識が叫ぶ声に、中世的な顔だちの思念体は胡乱な目を向ける。
『兄弟を滅する慈悲なき巫女よ、これ以上何を望むのですか』
「もう二度と仲間を失わぬために、もう何者からも奪わないために、あなたの守護の力を。ひとを癒し、己を励まして、立ち上がり続けるための強さを」
『我らはもはや万物を産み落とし、ただ“生きよ”と告げるだけのもの。巫女たちが棄てていったもののおかげで、余裕などないに等しいのですよ』
「ささやかで純粋な想いが、大きく世界を動かしていくことを、わたくしは知ることができました。“生きよ”と望んでくれる存在がいる、それだけでわたくしたちは立ち上がり、行く先を見据えることができるのです。わたくしは全てを救いたい。そのために、あなたの力を貸してください」
指を組み訴える女王に、思念体は表情を和らげた。
『母親は常に子供に甘い。我らもその業から抜けられないようですね。いいでしょう、巫女の想いを対価に、契約を交わすとしましょう』
「ミーディアムへあなたの力を。そして、1万2千年後に、辺境の村の技術者へ届くようにしてください」
『それでは、1万2千年分の想いが必要です。貫けますか』
「誓います」
『続く限りは約しましょう。ここに契約は為されました』

『アクセス終了』
「アヴリル様、少し休まれたほうが」
肉体に引き戻った女王に、側近がそう提案する。しかし、女王は首を振った。
「いつ穏健派に知られるともわかりません。今のうちに済ませなければ。繋げなさい」
『了解、アクセス開始』
そして、女王の意識は三つ目の思念体へ伸び進んでいく。

「エクイテス、剣の守護者にして克己の将よ。わたくしの願いを聞き遂げてください」
豪壮にして繊細な大剣を携え、手厳しい気と共に思念体は告げた。
『血の流れさえ許さぬ冷酷な巫女よ、この星を歪める元凶が何を望む』
「この星に生きる全ての意志のために、あなたの守護の力を。共鳴し、願いを貫き、ぶつかり傷つけあってでも、護るべき義のために最善を尽くす強さを」
『まさに今の状態ではないか。だからこそこの星が弱る中、私は力を失わない』
「いいえ、わたくしたちは自分が正しいと信じるあまり、相手を理解もせずに考えを押し付けあっているだけです。けれども、それでは己を越えることも、新しい考えを生み出すこともできません。わたくしは、わたくしたちの築いた壁を壊したい。そのために、あなたの力を貸してください」
拳を胸に当て、詰と目前を見据える女王の面に、思念体は不敵に唇を上げた。
「剣によって生み出すものがあるというか。そなたの想いを対価に、契約を交わすのも面白そうだ」
「ミーディアムにあなたの力を。そして、1万2千年後に、ゴーレムの腕を求める復讐者へ届くようにしてください」
『今の力でも、1万2千年分の想いが要るぞ。抱いていけるか』
「誓います」
『契約は為された。楽しませてもらおう』

肉体に戻された瞬間、女王は強烈な眩暈に襲われた。
「アヴリル様!」
「お気を確かに!」
「わたくしは、平気です……繋げなさい」
『了解、アクセス開始』
側近たちの悲鳴を後に、女王の意識は四つ目の思念体を探りはじめた。

「ソラス・エムス、天の守護者にして全知の賢者よ。わたくしの願いを聞き遂げてください」
女王が呼びかけるも、思念体は大判の書物をめくり続け、無関心を顕わにしていた。
「星を読み命を知るヒトの観察者よ、どうかわたくしの想いを聞いてください」
『――知に依りて地を貶めた愚かな巫女、数多の咎を負い何を望む』
「才と英知を正しく用いるために、多くの人々を救う術のために、あなたの守護の力を。驕らず、無限の知恵を信じて、幅広い存在を納得させるまで考え続ける強さを」
『理解は常に得られるとは限らぬ。真実は常に外部からもたらされ、痛みを伴う。それは繰り返され続けた事実だ』
本をめくり続けながら思念体はそっけなく返す。手に収まらぬ肉厚の本は、いつまでも終わりがないかのようだ。それでも、女王は声を強めて呼びかけ続けた。
「個々で見れば、愚かなものもいるかもしれません。大きな、どうしようもない流れが、浅ましい時代を刻むかもしれません。けれどわたくしは、生命体がそれほど愚鈍ではないと信じています。わたくしは、より良き未来へ進むための礎を築きたい。そのために、あなたの力を貸してほしいのです」
意識の像が揺らぐのを、女王は気力で堪えた。ここでは、像を結ぶのは精神そのもの、想いの強さこそが存在の証になるのだ。
『……愚かだな。何も知らぬ児のようだ』
溜息をつく様子をしながら、けれども思念体は書物を閉じた。
『契約を交わしてやろう。早く済ませるがいい』
「ミーディアムへあなたの力を。そして、1万2千年後に、辺境の村の技術者へ届くようにしてください」
『ルカーディアとともにか。ならばこちらも、同量の想いを対価とさせてもらうぞ』
「誓います」
『契約は為された。疾く去れ』
言葉の終わらぬうちに、女王の意識は数倍の速さで弾かれた。

『アクセス終了』
「アヴリル様、どうかお休みくださいませ! ご尊顔が真っ青ではございませんか!」
側近の必死の諫言もむなしく、女王は静かに首を振った。
「これは……わたくしの、切り札……あと二つ……繋げなさい」
『了解、アクセス開始』
ひとも逆らえぬ女王直々の命に、装置が逆らうはずもない。
女王の意識は殻を捨て、5つ目の思念体を捜し求めた。

「セレスドゥ、月の守護者にして試練の招き手よ! わたくしの願いを聞き遂げてください!」
無数の黒蝶が舞い踊る中、女王は思念体に向け声を挙げた。欠けた月を思わせる弓の弦を爪弾き、思念体は流し目で女王の意識を見やる。
『この世の全ての負を司る、妾に何を望むと言う? 巫女に従わぬ頑固者たちの征伐か? それとも、この星自体に送る壮大な呪詛か?』 
「いいえ。望みを抱くものたちが、相応しい覚悟を決めるために、あなたの守護の力を。刃向かわず、流されぬ瞳で、望みの本質に向き合い続ける強さを」
思念体は指を止め、狂女のように笑った。
『妾は安寧にたゆたうモノどもを、憎苦の泥に叩き落すが悦びよ。それを知ってなお、妾の力を欲するというのかッ』
「目を背けたいほどの闇があるからこそ、わたくしたちは立ち止まり己と向き合う機会を得るのです。傷も痛みも負わぬものは、行き着く先もまた持つことはできないでしょう。わたくしは、ひとの持つしなやかさを鍛えたい。そのために、あなたの力を貸してください!」
女王はこぶしに爪を立て、必死に声を投げかける。だが、応える思念体の瞳は冷ややかだった。いや、それは絶望に濡れた、空ろな瞳であるのかもしれない。無尽の黒蝶に取り巻かれ、思念体は全ての交わりを断ち切ったように超然としていた。
緊迫の気配をまとい、両者は長く見据えあう。やがて、一方の嘆息が均衡を崩した。
『嘆きの声で妾の力は増すばかり、想いを対価に、契約くらい交わしても構わぬ。だが、闇の孕む真の意味を悟らぬものに、使いこなせることはないと知れ』
「では、ミーディアムにあなたの力を。そして、1万2千年後に、疫病神の振りをする少年のもとへ届けてください」
『ふん、妾には瞬きには多い程度の時間だが、対価とするには同じ歳月分の想いでないと釣り合わぬな』
「誓います」
『契約は為された。せいぜい努めるがよい』
黒蝶の乱舞が思念体を覆う。そうして隠れる最後の瞬間まで、思念体は諦念の雰囲気を漂わせていた。

引き戻そうとする肉体の力に、女王は抗い漂っていた。実は5つの思念体と接触したことで、女王の意識は疲弊し、拡散する寸前にまでなっていたのだ。肉の殻に戻れば、二度と繋げられぬと悟っていた女王は、漂いながら6つ目の思念体を待った。全てのやり取りを見ていた思念体が、四肢の車を駆り自分の傍にやってくるのを。
「チャパパンガ、運の守護者にして楽観の使徒。わたくしの願いを聞き遂げてください」
『ついに俺まで捕まえやがったか。この星一に強欲な巫女よ、俺に何を望む?』
「わたくしの仲間たちが、望む未来へ変化するために、あなたの守護の力を。侮らず、むやみに恐れず、押し寄せる時のリズムと戯れていく強さを」
『その程度造作もないが……なあ、巫女。素質としちゃ微細なお前さんが、俺を引き付ける力をどこで手に入れた?』
睨み上げるようにして思念体は問うた。くだけた、一歩間違えば下卑た話しぶりだというのに、思念体は不思議と品を失わない。
「わたくしは」
女王は、氷の名に似つかわしくない――あまりにも似つかわしくない微笑で答えた。
「あきらめない限りひとは何でもできるのだと、ある少年に教わりました。あきらめずに己を貫いて、不可能を可能にした姿も見てきました。だからわたくしも、あきらめないことを決めたのです。わたくしに流れる血にかけて、あなたも含めた、今なお強く顕在するガーディアンたちの力を得ることを」
『その全てに俺が行きあったって訳か。はっは。こいつぁまさしく偶然じゃねえ、巫女が引きずり出した“好運”だ』
異形の肢を打ち鳴らし、愉快そうに思念体は笑った。
『いいぜ、その想いを対価に、俺も契約を交わしてやるよ』
「ミーディアムへあなたの力を。そして、1万2千年後に、親を見切った幼子へ届くようにしてください」
『なるほど、俺好みの女だ。俺は真実不幸な状況で、あがいてる奴にしか興味がねえからな』
「……賢くて泣き虫な、ただの女の子ですよ?」
『女はテメエで歩き出したらもう女なんだよ。それより、1万2千年分の想いがなきゃ、契約は成り立たねえぜ』
「誓います。何事があろうとも」
『は、消えかけのツラしてよく言いやがる。さあ、契約は為された』
途端、女王は糸が切れたように自身がくず折れるのを感じた。視界が暗転し、そのまま完全に途切れる。




氷の女王が再び瞼を押し開けたとき、まず視界に映ったのは主治医の丸い眼鏡だった。
「お早うございます。お加減いかがですか」
「わたくしは心配ありません。それより、ミーディアムはどうなったのです」
「実験は成功だと、側近の方々が仰っていましたよ。随分無茶をなさいましたな」
主治医のねぎらう声に、女王は珍しく気を抜いた溜息をつく。しかしすぐに表情を締めると、呼び寄せた側近中の側近に密命を与えた。命がけで作成した六つの装置を、それぞれ穏健派に見つからぬ地点へ隠させたのである。彼女だけが知っていたが、それは遠い未来、仲間たちの縁の地となる場所であった。

歳月は流れ、やがて女王は一対の銃器とともに、想いを抱いて眠りについた。
契約を果たすための、そして大切な人々に“出会う”ための、長い永い眠りに。






まずはひと言叫びたい。
ミーディアム多いんじゃ馬鹿ー!(歴代の中では少ないのだけれど)

さて、あんまりアヴリルに票が入らないので1本書いてしまいました。
もともと設定資料集の、「全てはアヴリルの計画通り」というのがいまいち納得しきれなくて作った話です。特にミーディアムを手に入れる経緯が、ディーンたち(とキャロルもか?)以外は非常に曖昧で、何か気に入らなかったのです。
いつの間にか手に入っていて、それを使いこなしている。その裏にはアヴリルの意図もあっただろうけれど、1万2千年後なんて途方もない未来に、そんな瑣末なことまで個人がコントロールできるものでしょうか。たとえばチャックとニアミスしていただろうヴォルスングが、月のミーディアムを持っていたりしても不思議じゃないですよね。
だったら、まだ力を残していただろうガーディアンたちに呼びかけて、ミーディアム自体に持ち主を選ばせていくほうが、まだしも私には理解できるのです。

そんなわけで、今回はガーディアンそれぞれを説得するお話になりまして、冒頭の叫びに戻ります(笑)
個別化に労力を振った結果、アヴリルの話のつもりだったのに、あんまり彼女自身の魅力が出せてない気がします。こう、ひしひしと;


読了ありがとうございました。

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