妄想挿話製作所(旧)


休止した荒野(主に5)の妄想挿話の保管庫です。念のため「はじめに」に目を通しておいてくださいね。

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光誕祭

もともとは、太陽と重ねて信仰されていたステア・ロウの復活を祝う祭だったらしい。
それがいつの間にか家族や恋人と祝うための、単なる宴のひとつになってしまった。

酒場で管を巻いていた独り者が、そう大声で主張しているのを聞いたときには。

昼の荒野に出れば嫌でも照りつけられるのに、わざわざ祝うなんて馬鹿馬鹿しい。

こんなことを、考えていた気がする。




「お兄ちゃん、この輪っか落ちちゃったの。つけて~」
ケイトリンの頼みに、ジェットは無愛想に壁にリースをかけ直した。
「えへへ、ありがと~」
満面の笑みを浮かべていた童女は、母親に呼ばれ台所へ駆けていく。
肉と野菜と香辛料の匂いが、家全体に漂っていた。
入り口にあるもみの木には、ステア・ロウの象徴である金属の玉が飾られている。
ギャロウズはクライヴとともに、食前酒と称して酒瓶を空けていた。
ジェットも付き合っていたのだが、少々不愉快になることを言われたので部屋を出てきたのだ。

「……うんざりだぜ」
ふう、と習い性になった溜息をつく。
家庭的な場所というのには、未だどうにも慣れない。
断片的な記憶の始まりから、長くひとりで渡り鳥を続けてきた。
仲間たちと過ごすことで、やっと他人を意識するようになったのだ。
誰かとともにいることを前提とした場所に――特定の誰かを迎えるためにある場所に、
慣れることなど当分できそうにない。
いや、むしろ慣れる必要などないのだろう。
渡り鳥をやめることはないのだから。

だからこれは、
この胸の翳りは、
足場のないような不安定さは、
誰かが欠けているせいではなくて。

『つまらなそうな顔ですねえ』
『リーダーが来なかったのがそんなに寂しいのか?』
断じて違う。
『まあ、家族で祝うのが一般的な風習ですしねえ』
『仕方ねえさ。プライベートは個々人の自由だ』
なんで俺が、
『依頼が入っていますから明日には会えますよ』
『そうそう。あと一日の辛抱だって』
俺が――

『あなたは時々わかりやす過ぎるんですよ』
『最近ますますいい女だしなあ、ジニー』

なぜか前者よりも後者のほうにジェットは余計に苛立ち、けれど大人組に言い募れるほど弁も立たない彼には、その場を立つという子供じみた抵抗が精一杯だった。
「……うんざりだぜ」
何とも言えず、二度目の口癖を吐く。

台所の気配から、晩餐の準備が整ったのがわかった。
もうすぐ誰かが呼びに来て、今夜の宴が始まるだろう。
今頃あいつも夕食の宴にいるのだろう、と考えて急に気が塞いできたのを、あわててジェットは打ち消した。

ブーツヒルからここまでが遠いことも、
あいつが家族を大事に思っていることも、
明日になればまた喧しく言い合うであろうことも。
みんな当人にはわかっている。
――なのに、なぜか翳りは消えなくて。
ジェットはもう一度溜息をつ

玄関でベルが鳴った。

つきかけた溜息が詰まり、ジェットは頭が真っ白になる。
何も考えられない彼の耳に、もう一度ベルの音が届く。
ジェットはふらふらと音のほうへ向かい、扉を開けた。
彼の視界に入るのは、
紫の上着と、
茶色い三つ編みと、
真昼の空のような対の瞳――

「ただいま、ジェット」

屈託なく笑うヴァージニアが、そこにいた。
「……おかえり」
思わず返事をした後で、ジェットははたと気づく。
「どうやって来たんだッ?! だいたい家で祝うって言ってただろッ」
「うちはお昼に済ますから、その後はロンバルディアに送ってもらっちゃった」
えへへ、と得意そうに笑うヴァージニアにジェットは呆れた。
けれど彼女が続けた言葉に、呆れは霧消してしまう。
「せっかくのお祝いだもん、ジェットたちとも祝いたかったんだよ」
それはそれは楽しそうに笑っているのだから、実際に楽しみにしていたのだろう。
仲間たちとの祝宴を。

「あッ、お姉ちゃん!」
「ええっ?! ヴァージニア、どうやってここに?」
「ケイトリン、クライヴ! あのねえ、ロンバルディアに……」
言いながら、ヴァージニアは二人に駆け寄っていく。
その向こうでキャサリンが微笑み、ギャロウズが爆笑していた。
彼女の存在が、家中を明るい楽しさで満たしていく。
まるでステア・ロウが一緒に現れたかのように。
なるほど、とジェットは思った。
明るさをもたらすだけで人を笑顔にできるのなら、
光の再来が喜ばれ祝われるのも、当たり前のことなのだろう、と。

いつの間にか。
胸の翳りが消えていることに、ジェットはまだ気づいていない。





クリスマス話その2です。
裏テーマは「パーティ」。
……のはずだったんですが、無駄に長い割に宴会できませんでしたな。


080608 修正
下手に手を入れたら余計におかしくなった気がしないでもない。



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